訪問レポート「サントリー山崎」

輿水さんは、1999年から、サントリーの三代目チーフブレンダ―として、「響30年」などの名酒を生み出した伝説のブレンダ―として知られている。現在は後進に道を譲ったものの、今でもウイスキーのすばらしさを伝えるため活躍されている。

サントリーは、昨年のイギリスの世界的な酒類コンペティション「ISC」(インターナショナルスピリッツチャレンジ)で、ウイスキー部門最高賞を受賞し、また、3年連続4回目の「ディスティラーオブザイヤー」に輝いているが、これには輿水さんの功績が非常に大きい。

サントリーは、創業者の鳥井信治郎氏以来、鳥井家/佐治家のオーナーがマスターブレンダーをつとめている。マスターが持つ、自分たちのつくりたいウイスキーのイメージをかたちにするのが、チーフブレンダ―の仕事。ちなみに、オーナー一族は代々鼻がよく、その指示に首をひねるようなことがないそうだ。

早速、蒸留所の中を案内していただく。ウイスキーは、発酵、蒸留、貯蔵というプロセスでつくられるが、サントリーでは、発酵にあたって、木桶とステンレスの発酵槽を使い分けている。木桶は手間がかかるため、今では世界でも珍しいそうだが、乳酸菌が棲みつき、深い味わいを生み出すということで、オーナーの強いこだわりで採用している。

蒸留は、ポットスチルと呼ばれる蒸留釜で行われるが、サントリーでは、直火で焚いている。世界のトレンドは直火から温度管理がしやすい蒸気に移ってきており、今では多くの蒸留所が蒸気を採用している。サントリーも一時蒸気に切り替えていたが、2005年にオーナーの決断で、半分の釜を直火に入れ替えた。その当時、日本ではウイスキー市場はダウントレンドで、役員たちは反対したが、直火だと釜の底に「おこげ」ができて、複雑でリッチな味わいになるということで、オーナーが「俺がやりたいんだ」と決断したのだそうだ。

蒸留された原酒は、樽で熟成される。この樽づくりにも、サントリーのこだわりがある。通常、ウイスキーメーカーは樽屋から樽を買うのだが、サントリーでは熟練の職人が自前でつくっている。樽に使う木も、スペインのシェリーバットやアメリカのパンチョンに加え、日本独自の「ミズナラ」を使っている。樽材によって、味が大きく違ってくるのだそうだ。

見学が終わったあとで、いよいよテイスティング。4種類の原酒を用意していただき、それぞれ、まずはそのまま、その後加水して香りや味の違いを確かめる。「スモーキー原酒」は、それだけでは癖が強いが、他の原酒に一滴落としてみると、面白いように味わいが変わる。

ウイスキーのブレンドは、絵画を描くようなもので、まず原酒を使って「絵具」をつくり、それを一つずつ重ねていく。その際、優等生の原酒だけでブレンドしても、深みが出ない。優等生をつくろうとして、たまに変わったものが出てくるが、それを少量ブレンドすることで、フルーティさや甘みが出てくる。それを見極めるのがブレンダ―の技であり、鼻のいい社員を一本釣りして、ブレンダ―を育ててゆく。社内には、鼻のトレーニングシステムもあるのだそうだ。

サントリーでは、スタンダードウイスキーと、「響」や「山崎」といったプレミアムウイスキーでは、その作り方に大きな違いがある。スタンダードは、お客様が毎日飲み続けられるか、という考え方で作っているが、プレミアムは、ブレンダ―が、自分が何を作りたいかのイメージを明確に持ち、それを優先している。「目利き中の目利き」であるブレンダ―が、一番わかっているはずという考えだ。また、樽によって原酒の味わいは微妙に異なるが、プレミアムウイスキーではその都度ブレンダ―が微修正を施している。そこまでやっているのは日本ぐらいのものだという。

日本は、スコットランドより明確な四季があり、それがウイスキーの熟成を早めるという効果があるが、日本ではさらに一年を24の季節(二十四候)に分けるという繊細な文化がある。また、山崎は千利休が「待庵」をつくったことでも知られる、水のいい土地である。
創業者鳥井信治郎以来の「やってみなはれ」の文化と、それを支える一流のブレンダ―や職人たちの力、さらに日本独特の気候風土で、世界に誇れるウイスキーが生み出されているということを実感した。