参加者の声 三宅秀道氏 東海大学政治経済学部専任講師

■ ものすごく面白かった。ビジネスのあり方どころか、利潤追求を必至とする近代資本主義の存在意義そのものについて考えさせられた。煩悩は見つけるもの、欲望は教わるもの、然り。コトラー流Demand Creationだって確かに「欲しかったの、これでしょ」と目の前に製品を置いてA~Ha!を獲得するわけですよね。欲望の開発、よくわかる。でも私はちょっと踏み込んじゃって、欲望を刺激し続け拡大を志向すること自体が是なのか?たとえば日本の「~道」って、煩悩すら抑えることを目指していたんじゃないか。それで鎖国(閉塞した国家)の中でもやってこれたんじゃないか。なら、もはや「閉じちゃってる」地球の上で、こういった「抑える」発想もありなんじゃないか?など、深く考える機会を与えていただきました。ありがとうございました。

■ シェアマーケターとブランドマーケターの違い。ブランドマーケターになるには何を日々意識し、企業体としてどう活動していくべきか大変勉強になりました。

■ ”最近興味があるのは、株主利益としての企業価値創造、事業拡大ではなく、その産業・その事業を行うことによって人々の生活が豊かに・便利になるような企業活動そのものの在り方です。
CSRを超えたCSV(Creating Shared Value)という賢しら気な言葉がマイケルポーターによって生み出され、まじめな日本企業のCSR部門の一部では一生懸命考えられていて、一種の流行でもありますが、残念ながら実態を伴わないこの考え方はいずれ廃れると思います。
今、考えているのは、もっと原始的かもしれませんが、本質的な「働く≒傍を楽にする」ことの意味に近いものです。今回のお話しはそれが一つにつながりました。本田総一郎さんが戦後の買い出しに困る主婦向けに「バタバタ」を作ったように、「目の前の人がどうしたら幸せになれるか考える人」が「新しい市場をつくる」のだと。
中小企業の方は「だって必死ですから」と三宅先生がお答えになったように、震災直後、「何とかしたい」「自分に出来ることはないか」と「必死に」考えた方々が、実にユニークで力強い挑戦をされています。三宅さんも懇意になさっている糸井重里さんが、そうした活動をされている方々を掘り起し、つなげ、発信されています。「人を助けるすんごい仕組み」という本をご存知の方も多いかもしれませんが、西條剛央さんの「ふんばろう東日本支援プロジェクト」や、自力で復興しようとしている事業者を半分の寄付と半分の投資で支えるファンドという仕組みを生み出したセキュリテ・ミュージック・ファンドのなど、「必死に」考えたときに生み出される力は実に驚くべきものでした。
私たちにはまだまだ必死さが足りないのかもしれません。それは必ずしも、「世の中にまだない習慣を造る」「一発で当たるアイディアや技術を作り出す」必死さではなく、今、そこにある技術を翻訳して、環境開発や認知開発で育てることにおける「必死さ」なのかもしれません。

■ 三宅さんは先生ではない、とお見受けしました。何をのっけから失礼な!いえいえ勿論いい意味でです。その視座とは実と学とのクロスオーバーあるいはクロスボーダーと申しましょうか、複眼的な見方ができるお方なのだと思いました。
著書の袖、ご経歴に品川区産業振興課、そして大小1000社近くの事業組織を取材・研究。Lectureで「(ビンボーだったから)学生の時は実際に町工場でバイトもした。」と、この現場に入り込んで実地で実感した経験が今日の三宅さんと本書をつくったのだと思います。現場のオヤジや棟梁や板さんはホワイトカラー系とは言語がちがうのでふところに飛び込み、腹を割って話さないと理解は得られません。
今の日本の凋落は三宅さんのいう4つのプロセス、(フィールドといってもいいかもしれない)問題開発・技術開発・環境開発・認知開発 が細分化、タコツボ化してしまって自分の専門外のことは想像がつかない、関心がない、余裕がない。だから時間軸にしても空間軸にしても周りが見えていない。世界観がない、ということに起因しています。
HOWばかりでWHATやWHYがなおざりにされているのです。
企業内でWHATを考えるのは「企画部」ですが、その形骸化について、「機能設計プロセスを『企画する行為』と呼んでいるに過ぎない」「企画というのは、長くその市場や商品のあり方に影響を及ぼす、それを定義する行為であるのに、技術開発に比べると直接関係する人員も少なく、期間も短い傾向があります。」と耳が痛い。
技術力をウリにしている企業が、必ずしも良い経営状態や成績を残せなくなっている今、エレクトロニクスもそうですが、自動車業界をみても各社何といっているか?「技術の○○」「テクノロジーがあーたらこーたら」・・皆一緒です。「テクノロジーが拓く豊かな未来」?それを研究してほしいのに、達成目標は数値目標(スペック)ばかり。
「技術開発に向いている組織構造は文化開発は向いてないかもしれない」と三宅さん。まず自分達のアイデンティティーから見直さないといけないとは、真に厄介で困難な問題です。
どうしたら「こころが入ったものづくり」ができるか、どうしたら自分を持することができるか、だれが人を作るのか どこで教われるのか? ものづくりの前にひとづくりを
「長い目で見るとまわり道のようでいて近道だった」と三宅さんご自身の言葉につながったところで、「文化開発」ができるひとづくりをしなければいけない瀬戸際にきていると考えたlectureでした。

■ 「必要は発明の母」と昔から言われているけれど、やはりニーズがなければモノは売れない。
しかし、かゆいところに手が届くようなモノやサービスであふれている今の世の中で飼いならされた現代人のニーズを満足させるには、さらなる高みを目指さなければならない。
その国の文化、習慣、さらに個人のライフスタイルがどんどん多様化していく中で、今までにない使い勝手のいいモノ、とんでもなく利便性の高いサービスや仕組みなど、まったく新しいライフスタイルを提供してくれるものを見出すことは大変な力仕事である。さらに、ニーズを見出し、モノが出来ても、現在の情報の洪水の中でどうやって知らしめるかが、全く新しい概念のモノの認知、また似てはいるが機能の陳腐化した既存商品との差別化など、これまた力仕事となる。
そのような状況の中で、三宅さんの「文化開発4つのプロセス」面白く拝聴しました。何でも過剰過多の世の中だからといって、物事を複雑に捉えすぎてしまったら頭の中は混乱するばかり、かといって今まで通りの調査分析だよりのニーズ発見法も問題あり、やはり市場やモノづくりの現場から地道にネタを見出し、モノをつくり、市場創造をしていくに尽きるということでしょう。
しかし一方で、現在の多くの日本のメーカーは、高品質を目指したがゆえに社内生産体制=垂直統合型にこだわった結果、商品が高価格になってしまい、サムソン、LG、ハイアールなどの水平分業型のメーカーの、「そこそこ品質・低価格」で世界市場での支配権を乗っ取られてしまった。その上、彼らの作るモノもどんどん高品質化している。今、その過ちに気付いた日本企業はメンツと労働法の壁で、もがき苦しんでいる。
また、議論の中にも出てきたが日本人の気概が失われてきつつあることに強い危惧がある。1990年のバブル崩壊後、不況が長々と続いたのも、政府の施策の過ちだけではない。その原因は、自分自身も含めて平和ボケ、中流ボケした日本人の気概のなさにも大いにあると考える。
かって明治維新、関東大地震からの復興、戦後の復興など、常に日本人は難儀をものともせずあるべき姿に向かって、ものすごいスピードで世の中を変えてきた。
現在の働く日本人は「改革提案は経営陣非難、出世に妨げになるような言動しない」「これをやって失敗したら先がない」「誰かがやってくれるだろう」「別に私が頑張らなくても会社はつぶれない」など消極的な意識の人が多いような気がする。それは、サラリーマン経営層、社員ともに同じような事がいえると思う。
とにかくまずは、意見の言い合える風土づくり、考える余裕、意識改革が必要。もう一度、魁から出直す必要があるのでは。

■ 技術は技術として大切でありつつも、それをどう使うか、適切な説得と時間をかけて技術の稼働率を上げ価値を創造し’文化’をつくることが
大切という部分に共感しました。
一部のひとたちだけがわかることも必要なのかもしれませんが、わたしたちの技術がどのような思いで生まれ、生活を支えているかをわかりやすく伝えていくことも必要だと再認識しました。
例えば安全な社会を実現するというのは、それが当たり前でなく、いかに難しいことであるか、想像しにくいかもしれません。その裏方でがんばるひとたちにスポットをあてて、押し付けや上から目線ではなく、「共感」を得れるようにがんばっていきたいと思いました。

■ 「新しい市場のつくりかた」は常盤塾で輪読していたので、内容的には良く理解しているつもりでしたが、著者ご本人を生で見て、その出版までの道のり「よりみち、あとからちかみちに」や傲慢さのかけらもない控えめな態度を見ていると、取材先の中小企業のオヤジさんに受け入れられ、さらにかわいがられる状態にまで打ち解けてこそ得られた、商品開発成功の本質だということが良く分かりました。
また、糸井重里さんとの対談の中で「なぜユニークな中小企業が成功するのか?」の答えが、「彼らは追い詰められて必死ですから」というのも、さもありなん。 やはりそれでこそ“セレンディピティ”が訪れる、正に“プレッシャー・メイクス・ダイヤモンド”なんだと納得。
いずれにせよ、お理工系の人間としては、技術偏重の事前決定論的ものづくりを脱し、新しい市場を切り拓く商品の企画に向く人の資質=とても優しい+ハスに見る人、を是非心かけたいと思います。

■ とてもわかり易く構成されたお話で、いちいち頷きながらお聞きしました。
中小企業、かつオーナー企業のほうが新しいことに対する動きがすばやく、成功に結びつきやすいことは納得です。大企業の中で企業内起業をさせるような動きもありますが、それとはどこが違うのか、危機感の問題だけなのか、もう少しつっこんでお聞きしたかったです。
もう一つ、市場はほんとうに「作る」ものなのでしょうか。具体的なモノとして示されなければ消費者はそれが欲しいということに気づかない、というのはそのとおりだと思います。水泳帽の事例は、まさにそのことを示していると思います。ただ、そもそも、消費者側に何か困っていることや、明確にはなっていない願望があってはじめて、モノが示された時に、「ああ、これが欲しかったんだ」と気づくのではないでしょうか。ほんとうに無から有を生み出せるのか、このあたりも議論したいと思いました。