Net or Die: 新しい消費者が迫る新しい企業モデル

Net or Die: 新しい消費者が迫る新しい企業モデル

片平 秀貴 ・ 山本晶

“Website is just like your dirty underwear. It shows the worst thing in yourself(ウェブサイトとは汚い下着のようなものだ。それは自分の最悪の部分をつきつける。)”というのは、あるウェブマスターの言葉である。この言葉は、サイトを持つとリアルにおいて企業が抱える問題点が表面化してしまうことを端的に表現している。実はウェブサイトをつくるということは、よい部分も悪い部分も含めてリアルな企業の姿をそのまま映し込むことに他ならない。自らのブランド群に対する深い理解と高い見識,組織を貫徹する顧客志向の強さ,リアルの生産供給態勢の完成度,何を重要だと考え何をすばらしいと思うかという企業文化の生の姿、こういったものが全て如実にサイトに映し出される。今まで簡単には見えてこなかったものが、顧客にも自分たちにもクリアに見えてくることになる。

そして、このことは顧客に変化の波を起こし、企業に経営課題を突きつける。カリフォルニア大学名誉教授のDavid Aakerは、2001年4月の東京での講演で「インターネットはこれからのマーケティングの中心にくるべきものである。」と述べ、一部の人たちの間で大きな波紋を呼んだ。

本稿においてはインターネットの普及が単にコミュニケーションの問題を超えて企業と消費者の間の関係に質的に決定的な差異を引き起こすというアーカー的見解を踏襲し、インターネットの普及によって顕在化しつつある消費者の変化と、その変化に対応するために企業に求められる能力をいくつかのケースおよび若干の実証結果をもとに明らかにしたい。そして、本稿での議論が今後の企業行動にどのような示唆を与えるのかを論じてみたい。

1.インターネットはどの程度家庭に普及したか

まずすべての議論の冒頭で、2002年10月時点でインターネットが日本人および日本の家庭にどのくらい普及したのかを押さえておくのは重要である。

2001年12月の㈱情報通信総合研究所の調査によると利用人口は5980万人で総人口の47.2%、利用世帯は2325万世帯で全世帯の49.5%に上っている。これは2000年12月に比べて人口普及率で16.2ポイント、世帯普及率で13.1ポイントの増加になる。この一年はその中でも特にブロードバンド(この調査では500kbps以上のインターネット)の普及が著しく、世帯普及率で1.8%から8.2%へと5倍弱の伸びを示している。

ユーザーの利用形態にも大きな変化が現れている。同じ調査によると1999年12月から2001年12月の2年間で、定額料金での利用者は全ユーザー中31.6%から76.6%に増大し、常時接続での利用者は全ユーザー中0.6%から17.3%に増大している。

まとめると以下のとおりである。2001年12月時点で

1.日本の世帯の半分でインターネットが(少なくとも月1回)使われている

2.日本の世帯の1割弱はブロードバンドに(常時)接続されている

3.日本の世帯の4割弱は定額制でインターネットを利用している

これは、インターネットがあることが職場だけでなく家庭内でも終に「当り前な」環境になったことを示している。

2. インターネットが引き起こす消費者行動の変化

Barwise, P., A. Elberg and K. Hammond (2002) はインターネットの消費者行動への影響としてつぎの4つを挙げている。

1.よりスピーディで安価,そしてより個人化した対企業及び対個人のインタラクション

2.探索費用の劇的減少

3.距離の壁,言語の壁の消滅

4.いつでもどこでも可能(ユビキタス)なコミュニケーション

この4つは今日の欧米のマーケティング分野におけるほぼ標準的な見解といってよい。しかしながら、わが国でインターネットの消費者への影響を論じるときにはこれらに加えてさらにつぎのような3つの新しい側面に注目する必要がある。

内気な日本人のダイアローグ意欲の向上

企業に対する俯瞰能力の向上

おもてなし感度の向上

この三つの要因はBarwiseたちが述べたよりユニバーサルな4つの要因を超えてわが国企業のマーケティングに決定的な影響を及ぼす可能性がある。以下では、この三つの要因がどのようなものかを確認した上で、これらが企業行動にどのようなインパクトを与えようとしているのかを見てゆくことにする。

2.1 ダイアローグ意欲/能力の増大

日本人は親しくない人とのフェイス・ツー・フェイスの接触をできる限り回避する傾向が強い。これはマーケティングの文脈では、圧倒的に低い不満表明性向に表われている。商品に不具合があったときに売り手に文句を言う比率は欧米では商品によって50-90%であるのに対して日本の数字は大体その3分の1から5分の1にとどまっている[国際価格構造研究所(1996)]。

講義や講演で質問が出ないのはこれと似た現象である。筆者は大学で講義をする際に毎回学生たちにコメントシートを提出させている。質問はないかと聞いてもほとんど手が挙がらないにもかかわらず、提出されたコメントシートの多くは興味深い質問とコメントで埋め尽くされている。コメントシートという仕組みがなかったらそこに書かれていることは決して日の目を見ることはなかったに違いない。日本の聴衆が質問しないのは決して質問や疑問がないわけではないことがこれで分かる。

ではなぜ「コメントシート」というしくみがあるとすんなりと質問が出るのだろうか。それはおそらく多くの日本人が嫌うフェイス・ツー・フェイスの接触がないということと無関係ではない。Eメールとかインターネットの掲示板といった電子的しくみもこのフェイス・ツー・フェイスの接触がないという意味で「コメントシート」と同じ性質を持っていることに気付く。このしくみができたことにより普通の人の生活シーンから生まれるさまざまな疑問や知恵が、そのまま埋もれることなく外に発信されるようになってきている。

ブルータスの前編集長で現在日本版ヴォーグの社長の斎藤和弘氏は,「昔から手紙とファックスでくる苦情や意見は大体型が決まっていてほとんど参考にならなかった。ところが最近Eメールで送られてくる読者の声の中には時々はっとさせられるものがある。これは無視できないなと思うようになった」と語っている。以前とは比べ物にならないくらい多数の普通の人たちが肩の力を抜いて発言するようになったことにより、その中に時々驚くほど貴重な知恵が混ざっていることがあるというわけである。

これについてはさまざまな例があるが、普通の主婦の間で取り交わされた何気ない意見交換の中にきらりと光る知恵が見つかることは、以下のダイアローグが例証している。因みにこれは㈱カゴメのサイトwww.kagome.co.jp内にある「野菜生活ネット」というコミュニティで交わされた消費者同士の会話である。

図1  野菜生活ネット(http://www.yasai-web.com/

お弁当のご飯って真っ白だと、なんとなく味気なくてフリカケをよく利用しているのですが、ちょっと飽きてしまうんですよね。何か他のレパートリーを知っている方いますか?

どうぞ宜しくお願いします

むかし私の母が私のお弁当を作ってくれたとき白いご飯の間に、おかかや、鮭フレークや、ツナを醤油とみりんでいためたようなものをサンドイッチみたいにしてくれてました。

見かけはふつうの白いご飯なので、なかから具が出てきて、びっくり、美味しかったのを覚えてます。

もう一つの例は、化粧品の口コミサイトの「@コスメ」(http://www.cosme.net/)である。ここには2002年10月現在で611,664もの口コミ情報が寄せられている。ここでは、ハンドルネーム、肌タイプ、年齢、投稿日時、商品の評価(星の数)が表示され、商品情報が書き込まれている。

このサイトでは普通では聞けないようなシャープなコメントが散見される。例えば、あるリキッドファンデーションに対しては次のようなコメントが書かれている。

「・・・一日付けていましたが、メイクオフするまでそんなにくずれるってことはありませんでした。(多少テカってはきますが)

潤いもあるのにSPF21 PA++っていうのもこれからの時期にも嬉しいです。

ただ、みなさんおっしゃるように容器は使いづらいです。瓶の口が広くてどばっとでてしまいそうです・・・。お気をつけください。」(乾燥肌、27歳、6つ星)

「・・・リキッドって厚塗りっぽくなっちゃいそう。って思っていてずっとパウダリー派だったのですが、このリキッドは伸びもよくて厚ぼったくならないしベタベタもしないので良かったです。

でも、ケースが使いづらいかなιあと、買うならお粉と一緒に買うべきだと思います☆」(混合肌、25歳、7つ星)

「これは本当にスゴクよかったです。今日の東京の朝の豪雨のなか30分自転車で走っていたにもかかわらず、仕事場について鏡を見たら、「あらまぁ、取れていない」

結構感動モノでしたよ。たいていファンデをつけても30分の自転車通勤だと汗で流れてしまうことが多いのですが、今日はあの凄まじい雨にも耐えたし、暑くて汗を流してもほとんど崩れなかった。しかもこれは下地のおかげかもしれないけれど、乾燥もしなかった。確かに昼前にはTゾーンは崩れたけれどちょっと押さえて化粧直し終了だなんて、すごすぎです。これ本当に買ってよかったです。」(混合肌、25歳、7つ星)

このような意見は今までは顧客の頭の中にはあっても決して外に対して発信されることはなかった。今まで知る由もなかった大事な顧客の感想が居ながらにして手に入るというのは、企業にとってはまさに情報環境の大きな質的変化である。肌の仕上がりと同様に容器が注目されていることや、顧客の通勤スタイルなど、このサイトがなければ企業は永遠に気付かなかったに違いない。

では、このようなコミュニティはそもそもどのくらいの人々に利用されているのだろうか。2001年12月に行った日経BP 社の「インターネット・アクティブ・ユーザー調査」(有効回答者数16,600のウェブ調査)によると、回答者の23.2%が商品、サービスに関する何らかのコミュニティの利用経験者だった。また、それらの利用経験者たちの利用目的を見ると、19.8%が「情報交換」、13.9%が「要望の提案」と答えており、重複を無視すると30%以上の利用者が「発信型」の目的を持って利用していることが分かる。

これらの数字を整理すると、商品やサービスのコミュニティにやってきて何らかの発信をしたことがある人は全人口の3.5%(.50[インターネット利用]×.23[コミュニティ利用]×.30[発信])にも上ることになる。これを人数に直すと420万人になる。この数は明らかに「一握りの変わり者」ではない。この人たちの知を味方に出来るか否かが大きな意味を持ってくることが分かる。

2.2 俯瞰能力の増大

従来の企業と顧客の関係の多くは、顧客が匿名でその企業の商品・サービスを貨幣と交換するというものであり、企業がその顧客を個別に認識したり、顧客が企業についてその製品・サービスを超えて知っていたりすることはなかった。したがって企業にとっては、顧客の望む商品サービスをいかに適正な価格で提供するかが唯一最大の問題であった。

 近年顧客の購買基準は、単に商品・サービスによる便益とその対価というモノベースのものから、その背景に誰がいて、その人たちがどんな理念に基づいてそれらを提供しているのか、というホリスティックなものに移行している [例えば、D. Lewis & D. Bridger (1999)]。やや古くなるが片平研究室が1996年末に首都圏の女性500人に聞いた調査では[片平(1999)]、76%の人が「商品を購入する際にその企業の地球環境や人間社会への姿勢も気になる」という問に対して「そう思う」、「ややそう思う」と答えている。具体的に今日の消費者が問う問題はつぎのようなものである。

  • 何を考えて存在する組織か
  • どんな人が動かしているのか
  • 誰のために存在するのか
  • どの程度私たちのことを考えているのか
  • 何をやってきてこれから何をしようとしているのか
  • 組織のIQは

第一、第二の雪印事件をはじめ2000年から2002年にかけて頻発した企業スキャンダルは消費者の企業自体への関心をさらに一層強めたのではないかと考えられる。

ところが、改めて指摘されてみると驚く人が多いのではと思うが、一般の消費者にとって自分が購入し消費する商品およびブランドについての知識は直接的消費経験に関わるもの以外は驚くほど少ない。一般にその知識は、商品・サービス自体がどのようなものだったか、広告では何をアピールしていたか、販売時点および購入後のサービスはどうだったか、という点についてごく断片的に得られる程度にすぎない。企業なりブランドなりの全貌を正しく理解する能力をここで「俯瞰能力」と呼ぶことにすると、一般消費者の俯瞰能力は極めて限られたものであるということができる。

たとえ不完全なかたちにせよ、リアルな世界で例えば㈱トヨタ自動車について上の6つの質問に正しく答えるのはベテランのビジネス・ジャーナリストにとってですらきわめて困難な課題である。しかしながら、インターネットの出現により、普通の消費者でも比較的容易にこのことが可能になりつつある。優秀な企業ウェブサイトは自分たちの姿について驚くほど多くのことを語りかけているからである。

その結果、消費者のその企業に対する俯瞰能力はインターネットがなかったときと比べて大幅に向上することになる。

2.3 おもてなし感度の向上

 インターネット登場以前は、ひとりひとりの顧客を認識し、彼らにあったメッセージ、製品・サービスをカスタマイズして提供することは非常に高コストであった。こういった「おもてなし」は、限られた常連に対して高い人件費をかけた場合にのみ実現できるサービスであって、消費財メーカーのマスマーケティングとは無縁の世界であったといってよい。

ところが、インターネットの出現によって、個人を識別したメッセージの発信が可能となった。「こんにちは、xx様、先日お買い上げの○×はいかがでしたか?」といったEメールや、ログインIDやパスワードを利用したウェブページのカスタマイズ、といったことが、安価に、容易にできるようになってきた。

 このことは、必然的に消費者の「おもてなし感度」を向上させることになる。そして、この「おもてなし感度」には下方硬直性があり、一度「上得意」としてよいサービスを味わった顧客は、それ以下のサービスでは満足ができなくなる。

もし、ある企業のリピーターであるのに、「いちげんさん」のような扱いをウェブサイト上で受けたなら、顧客はどう思うだろう?「私は何度もこのサイトに来ているのに」、「以前からこの商品を使ってきたのに」、「個人情報も提供してウェブ会員になったのに」、「この商品はもう持っているのに」、など、顧客の落胆は計りしれない。

2.4 インターネットで逆転する企業への評価

消費者の企業に対する俯瞰能力の向上は、当然のことながら従前のその企業に対する評価に新たな変化をもたらす。新しい環境下では企業は新たにつぎの二つのことに注意を払う必要がある。

1.組織全体が顧客の評価軸に沿った魅力を備えているかどうか

2.その組織全体の魅力をウェブサイトで正確に表現できているかどうか

この二つの点がきちんとできているかどうかで消費者のその企業に対する新たな評価は大きく変動することになる。

山本晶(2001)は、消費者調査データに基づいてつぎのことを明らかにした。

1.企業のウェブサイトに失望すると、その企業に対する好意度が下がる(下がる18%+やや下がる37%=55%)

2.企業のウェブサイトに失望すると、その企業の製品・サービスを購入したいという気持ちが低下する(下がる21%+やや下がる25%=46%)

3.貧弱なウェブサイトのもたらす好意度や購買意図への悪影響のほうが、良質なウェブサイトのもたらす好意度や購買意図への好影響よりも大きい

製品・サービスが何ら変わらないのに、ウェブサイトの出来不出来だけで評価が逆転するというわけである。そして、貧弱なサイトを持ってしまった企業は、あっという間に顧客の支持を失うことになりかねない。この事実は企業に対してインターネットに対する認識を根本から変えることを迫っている。

3. 新しい企業モデル

第2節で見てきたような顧客の変化は、当然のことながら企業のあり方に直接大きな影響を与える。まず顧客の変化を以下にまとめてみよう。

1.企業と社会に対して発言・発信するようになった

2.企業とブランドの志を問うようになった

3.企業が自分を顧客として認識しているかどうかを問うようになった

これを一言で言うと、顧客がはじめて個別の人格をもった個人の集合として企業の前に現れたのである。従来の、「商品と貨幣を交換して立去る匿名のマス」を顧客と考えるモデルがもはや十分に機能しないのは明らかである。すべての価値が顧客の頭の中から生まれることを認識し、生身の一個人としての顧客から高い評価を受けるべくあらゆるアクションを組み立てるという方向がこれからの経営に求められている。

ここに興味深い分析結果がある。日経BP社は企業やブランドが顧客からどのくらい支持されているかという指標を2万人の調査から作成し「ブランド・ジャパン2002」というかたちで発表している。その総合指標の大きい順にブランド(例えば、カゴメ)を企業(例えば、カゴメ㈱)に翻訳し、非上場企業を除いたランキングを作成した。その上位企業の過去10年にわたるROAと売上高経常利益率を、普通の優良企業(ここでは「日経225」に含まれる225社を用いた)のそれと比較をしたのが下の図である。

図2-1 BtoCブランドROA比較

図2-2BtoCブランド売上高経常利益率比較

これで見ると2001年末時点で顧客の支持の非常に高い消費財企業は1995年あたりから一貫して普通の優良企業平均よりROAで2倍、経常利益率で3倍高くなっていることが分かる。 「顧客の支持を得る」ことを第一に考えたモデルが既に機能していたことになる。今後電子社会が一層進展するにつれてそのモデルの重要性は二重三重に高まることが予想される。その根拠は二つある。

一つは、電子化の進展と共に上で述べた消費者の三つの変化はますます加速すると思われる点である。例えば、不平不満を発信できると知った消費者は決して後戻りすることはないだろうし、企業の「志」に共感した顧客はビジョンのない新製品に飛びつくことはない。もう一つは、そういった新しいタイプの消費者と一緒に歩むことを目指す企業とそうでない企業の差は今までにないスピードで急速に広がることが予想される点である。前者では顧客とのインタラクションの増大に比例して顧客の支持を取り付ける能力の習得が進み蓄積されるからである。現時点で問題とされるのは、企業にその能力があるかどうかではなく、企業にその能力をダイナミックに習得して蓄積するしくみが備わっているかどうかである。

具体的には、消費者側の三つの変化に対応して、これからの企業には次の三つの能力が要求される。

1.顧客と対話して顧客から学ぶ能力

2.ビジョンをつくり、発信する能力

3.顧客をもてなす能力

顧客を匿名のマスとして扱ってきた多くの企業には現在のところこの三つのどれをとっても貧弱なところが多い。インターネットを梃子にしてそれらをどう獲得してゆくのかを以下でみてみることにする。

4. 新しい企業に求められる三つの能力

4.1 志を磨き発信する能力

既に上で述べたように、1990年代後半以降、自分たちが購入する商品やサービスの質だけでなく、その裏にある企業の志とか哲学を問うという消費者が目立って増えてきている。そういう人たちにとっては商品自体の性能と品質も重要であるが、同時にその企業がなぜ、誰のためにその商品を世に出したのかというメッセージも同じくらい重要である。この企業の志とか哲学を発信するということは単に企業理念の文章をウェブサイトに載せることではない。企業のあらゆるアクションについてその意味と意図を直接、間接に関係者に伝え続けることである。

このような意味でベストプラクティスとして挙げられるのは、フォーシーズンホテルのウェブサイトである。

Four Season’s Hotel

ここでは、「Who We Are」、「 What We Believe」、「How We Behave」、「How We Succeed」といった項目で、企業の存在理由、ビジョン、行動指針、利益の源泉が明確に、簡潔に述べられている。(http://www.fourseasons.com/about_us/company_information/about_us_9.html)たとえば「How We Behave」というところでは、「In all our interactions with our guests, customers, business associates and colleagues, we seek to deal with others as we would have them deal with us.(お客様、取引先、従業員と接する際には、自分がして欲しいと思うようなことを相手に対してしてあげるように心がける)」という記述があり、はっとさせられる。

企業サイトは企業の姿勢を発信する場である。したがって、リアルですばらしいマーケティングを展開している企業が貧弱なサイトを開いて平気でいるという事実は、それだけでその企業の姿勢について重大なメッセージを発信していることになる。サイトが貧弱なのはその企業がインターネットの世界を重視していないか、重視していてもそのための資源と能力がないかのどちらかである。いずれにしてもその人たちが時代の先端で輝くための資質を欠いていることを露呈しているのは間違いない。

また、本来整合性のない事業や製品を保有しているような場合は、サイトを構築する際にその問題に直面することになる。本来のブランド・ビジョンにそぐわない商品・サービスのコンテンツがサイト内に存在するのは、ウェブサイトの問題ではなく、そのような事業にそもそも手を染めたリアルの問題に他ならないのである。

冒頭で述べたように、ウェブサイトをつくるということはリアルな企業の姿をそのまま映し込むことに他ならない。企業のビジョン、顧客、株主、従業員に対する考え方、モノづくりに対する姿勢、事業組織間の政治力、グループ企業の統治スタイルなど、全て如実にサイトに映し出される。今まで簡単には見えてこなかったものが、顧客にも自分たちにもクリアに見えてくるのだ。

たとえば、簡単な一例はリンク構造とドメイン政策である。この二つはグループ企業や保有ブランド群の関係縮図である。「企業ブランドと製品ブランドの関係と、その比重は?」「ブランド・ファミリー内のサブ・ブランドは何と何でそれらはそれぞれどのくらい重要か?」これらの問いに答えられない企業は、製品サイトやプロモーションサイトの乱立、不親切なナビゲーションといった問題に直面することになる。

ブランドとブランド群を定義し、サイトを設計する際に注意しなくてはならないのは、「顧客視点」で行うことである。組織の論理で別組織、別サイトを立ち上げるのは、会社側の勝手な都合である。たとえばキャノンの場合、「キャノン販売(http://www.canon-sales.co.jp)」と「キャノン(http://www.canon.co.jp)」で別サイトを展開していた。顧客から見れば、キャノンはひとつであり、どちらのサイトを訪問してよいのかわからないようなサイト設計は不親切であった。キャノンはその後顧客志向を最優先にし、二つのサイトを統合するという決断を下した。

顧客の頭の中でひとつのブランドとして存在するものを二つに分けてはならないし、反対に独立したふたつのブランドとして存在するものを便宜上ひとつにしてはいけないのである。

4.2 顧客から学ぶ能力

卓越した商品は「アイデア→商品化→生産・販売→使用→改善アイデア」というループを何回も回ることにより育て上げられ、完成する。本来、商品を考え,つくる場は企業組織の中にあるのだが、顧客がそれを使ってその便益を経験する場は企業組織の外になる。アイデアを練り,商品化し,実際につくるまではいいのだが、そこでこのループはぷつんと切れてしまう。その先どうなったかについては、企業としては市場の売上高と市場調査データをとって間接的に把握する程度しか道がない。

長期的に消費者の支持を得ている数少ない企業はこの「使用→改善アイデア」のところでのループの切断を避けるためにいくつかの工夫をしている。花王とトヨタ自動車は営業が小売店に出向いて顧客の生きた反応を収集している。ホンダは「自分自身が一番優れた消費者」という信念のもとに全員が「ユーザー道」に磨きをかけている。銀座伊東屋やBEAMSといった専門小売店ではお店に来る先端的な顧客から学ぶさまざまな仕組みが考えられている。

それ以外の大半の企業はこのループを切断したまま手探りで試行錯誤をするという無駄を積み重ねてきた。筆者はこの分野でインターネットが果たす役割は計り知れないと考えている。既に見たように、インターネットの普及により今日の消費者の発信能力と発信意欲は飛躍的に増大している。これをうまく自分の味方につけるだけで「使用→改善アイデア」のところが太くつながり、企業と顧客が一体となった成長のスパイラルが生まれるというわけである。さらに今日の消費者は自分が本気で気に入った企業に対しては、損得勘定抜きで積極的に提案し,また,仲間によい評判を流すものだという [D. Lewis & D. Bridger (1999)]。そうだとすると,そのような消費者を育てることにより,そのスパイラルをいっそう加速することになる。

最近自分のサイトに消費者コミュニティを開設しようという企業の動きが目立っている。東芝の「タンポポママ」[tanpopo.toshiba.co.jp]、カゴメの「野菜生活ネット」[www.yasai-web.com]、ホンダの「ワイガヤルーム」[www.honda.co.jp /WAIGAYA/]、などはその代表例である。ところが、上述のウェブマスターインタビューでは、ほとんどのウェブ担当者がコミュニティには否定的であった。際立ったメリットが見えない上に、書き込みのハンドリングを一歩間違えるととんでもない大問題を引き起こしかねないという恐れから腰が引けてしまっているのだ。せっかくの仕組みがここでいっせいに頓挫してしまうのはいかにももったいない。早急にいくつかの成功モデルを確立しなければいけない。

企業サイト内のコミュニティが上で述べたような意味で企業とその顧客に資するためには何が必要なのだろうか。 企業担当者と顧客双方からのヒアリングで分かったことはつぎの3点である。

1 ターゲットを定める:

これは二つの意味で重要である。一つは、サイトのコンテンツが訪問者にとっていつも興味深いことを保証するためである。サイトが賑わわなければ何も始まらない。サイトが賑わうためには絞り込まれたコンテンツで絞り込まれたタイプの人たちの関心に訴える必要がある。また同じ関心,同じ文化を共有する人たちが集まるからこそ,訪問者のリピート率が高まることになる。カゴメの「野菜生活ネット」は健康・野菜志向の主婦、ホンダの「ワイガヤ」はカーキチでホンダファンという具合に明確に絞り込まれている。もちろんこの絞り込みが企業またはブランドのターゲットと矛盾してはいけないのは言うまでもない。

もう一つは、その企業と会話する相手がその企業にとって重要な消費者であることを保証するためである。ネット上で新しい乗用車の商品開発プロジェクトを行った㈱ムジネットの西川英彦氏は「お蔭様で話題にはなったが,熱心に意見をくれた大半の人は車を購入しなかった。今後はどういう人にコミュニティに参加してもらうかを真剣に考えていかなければならない」と述べている。

2. アイデアの獲得ではなく顧客となじむ

顧客と会話をすることによって直接顧客から「改善アイデア」自体を獲得できると考えるのは正しくない。㈱本田技術研究所で乗用車開発の総指揮をとる小田垣邦道氏は「顧客の意見が直接開発のインプットとなることはほとんどない」と語る。一般に顧客は商品を使用してみての不具合とか,きわめて断片的な要望を述べることはできても商品化につながるような革新的なアイデアを描くことはできないからである。

上で紹介した「@コスメ」のサイトでは、リキッドファンデーションの「容器瓶の口が広くてどばっとでてしまいそう」であることは教えてくれるが、具体的にどんな容器ならよいのかについては語られていない。

このように企業にとってのコミュニティの効用は、商品開発やマーケティングの企画立案に関わる人たちに、ターゲットとなる顧客の目の付け所や感じ方について重要な情報を伝えることである。それによって企業が生み出す革新のアイデアが顧客にとって的外れなものでなくなるわけである。「使用→改善アイデア」のステップは実は「顧客による使用→顧客によるコメント→担当者による消化,熟成→改善・革新アイデア」というかたちで構成されていると見ることができる。例えば,ホンダの「ワイガヤルーム」の中の意見は同社のエンジニアたちにとって直接参考になるものは少ないかもしれないが,彼らに自分たちが「顧客の中にいる」という奇妙な安心感と自信を与えている。

3 中立性を維持する

コミュニティは元来メンバーが集まり自然発生的に生まれるものである。これを企業が「つくる」というわけであるから、始めから不自然さがつきまとう。さらに消費者は企業サイトで提供される情報が中立的でないと考える傾向がある。また、Bickart & Schindler (2001) の実験では、非企業ウェブサイトのオンライン・コミュニティで情報収集した消費者の方が、企業ウェブサイトで情報収集した消費者と比較して対象製品に対する関心が高まるという結果がでている。企業サイトのコミュニティを中立的な「広場」に持っていき、マーケティング・ツールとして活用するためには並大抵でない努力が必要になる。

これを達成するために注意すべきことはいくつかあるが、最も本質的なことはつぎの一点である。それは、そのコミュニティが自社を利するためにやっているものではない、という動機の潔癖性をきちんと伝え理解してもらうことである。

その意味では、米国Shell社の「TellShell」(www.shell.com/tellshell/)が好例である。

図4 Tell Shell(http://www.shell.com/Tellshell

このページでは主に環境問題がトピックとなっており、Shell社に否定的な個人やロビイストから寄せられた意見を編集することなく掲載している。

この試みは同社の製品がいかに環境を害するかを宣伝してしまう危険を孕んでいるという意味では非常にリスキーである。しかし、同社が環境問題に誠実に取り組んでおり、口先だけではなく本当にオープンな対話を行っていることを示す場となっている。

以上見てきたように、ターゲットの絞込み、顧客との親近性の確保、中立性の維持の3点が顧客と一体となったコミュニティ・ベースの経営の基本である。欧米のインターネットが「探し,知る」ためのツールであるのに対して、わが国では「集う」という色彩が濃い。首尾よく成功のフォーマットが見つかると、この固有の性質と相まって一気に「顧客とともに進化する」ビジネスモデルがわが国で花開く可能性も夢ではない。

4.3 顧客をもてなす能力

習得のためのスパイラルが必要な第三の能力は「顧客をもてなす能力」である。もちろんこれは能力だけではなく組織を挙げての姿勢とか文化が関連する。銀座伊東屋の伊藤高之社長によると、松屋の社長をされて後に東武百貨店に移られた山中鏆さんはいつも従業員に「君たちは売らなくていいんだよ。お客様に親切にして差し上げなさい」とだけ言っていたという。伊藤氏はこれが究極の「おもてなし」だという。

電子社会の顧客から見てもう一つ重要なことは、企業が自分を匿名のマスの一人ではなく個別の生きた人間として認知してくれるかどうかである。2節で見たように彼らは自分への個別のおもてなしに対して非常に敏感である。商品・サービスを購入しその感想なり不満なりを発信することが珍しくなくなったことは既に述べた。そのとき企業側から誠意のある個別の回答をもらうことがいかにその顧客のその後のロイヤルティに影響を及ぼすかを真剣に考える必要がある。Strauss and Hill(2001)は、顧客満足はクレームメールへの迅速な対応によって改善できることを実証している。

この意味でベストプラクティスとなるのは、米国Xeroxであろう。同社のメール問い合わせ責任者のBill McLain氏は、顧客からのメールはそれがどのような内容のものであっても必ず真摯に受け止め、返事を書くことで伝説となっている。たとえば、「ピザを発明したのは誰か?」、「このせりふが登場するのはどの映画だったか」といったXeroxとは何の関係のないようなものまで、調べて返信するという。無論このようなメールは少数派であり、問い合わせの多くは製品に関するクレームである。そして、クレームに対してはXeroxのほうに問題があるという立場をとり、顧客の問題を解決するために全力を尽くすという。

彼の行動指針は”Treat others as you would have them treat you”であり、これは奇しくも先述のFour Seasonsの社訓と同じである。クレーム解決後、彼のところには感謝のメールが多く届けられるという。

また,毎回新たな顧客として「平等に」扱われるのではなく、その人固有の購買履歴を認知してそれにふさわしい対応を受けることも同様に重要である。たとえば、BMWのclub7は(http://www.bmw.co.jp/Services/Club7/)7シリーズの所有者限定のコンテンツである。

図5 BMW club7

こういった「おもてなし」は従来アナログな名人芸として高級ホテル等のきわめて高品位なサービスでのみ可能なことと考えられていた。マス・マーケターが個別の顧客をこのようにもてなすことは、概念としてもまた効率から考えても全く考えられないことだった。しかしながら、電子社会の環境はこの状況を一変させている。企業はマスのセッティングでも一人一人の顧客を個別の人間として識別し個別に「おもてなし」をすることが可能な環境が整いつつある。

顧客一人ひとりが企業と一対一で対話をはじめていて、その人たちをウェブでそしてリアルでどうおもてなしをするかが企業にとっての最重要課題になりつつある。企業が仕掛けたのではなく、顧客が既に企業の門前に押しかけてきているのだ。従来の企業対マスの図式に慣れたマーケターたちはこの事実に目を向けようとはしないが、これに気がついておもてなし能力の獲得に乗り出した企業はそうでない企業に急速に水をあけ始めている。

そのいくつかの成功例を見ると、それはほとんどの場合つぎのようなモデルに一般化することができる。

オンラインで顧客と個別に対応

オフラインでは今まで通りのマス・オペレーション

「オン・オフ・オン・オフ・・・」でおもてなし

いくつかの例をあげてみる。

1.修理品のトラッキング

クロネコヤマトのサイト(http://www.kuronekoyamato.co.jp)では自分が配送を依頼した荷物がいまどこでどんな状態にあるのかを検索できるようになっている。おそらくこのようなトラッキングをサイトで可能にしたのは、わが国ではここが初めてだったのではないかと思う。宅急便のオペレーション自体は従前と変わらず「マス」的な処理で行われているが、オンラインではきめ細かい個別の対応がなされるというわけである。

このモデルは家電業界に伝播して修理品のトラッキングに応用されている。ソニーのバイオのサポートサイトである「マイサポーター」では

(https://mysupporter.vaio.sony.co.jp/mysupporter/)では、顧客の所有機種に応じた情報が表示され、問い合わせ履歴や修理履歴が瞬時に分かるしくみになっている。家電のECサイトの中でも専門家の評価の高いムラウチのショッピングサイト(http://www.murauchi.co.jp)でも同じようなサービスを行っている。

2.マイ・ソニーID

最近ソニーからもう一つ新しいおもてなしのしくみが発表になった。今まで購入商品ごとに行われていたユーザー登録を「名寄せ」しようという試みである。これによりユーザーはひとつのID で自分が所有するすべてのソニー製品について問合せができるようになる。また、メーカーとしては顧客別にソニー製品の購入履歴が把握できるようになり、ソニー製品のヘビーユーザーに対してより手厚いおもてなしができる仕掛けが整ったことになる。

3.ツタヤ・オンラインの顧客サービス

ビデオ・レンタルのツタヤをサポートするツタヤ・オンラインのサイトではオンライン・メンバーに対してさまざまなパーソナルなサービスが行われている(http://www.tsutaya.co.jp)。「今こんな気分になりたい」というキーワードを指定するとそれにふさわしい映画を推薦してくれるというサービスがある。これは店頭ではそれに要する時間からみても対応する店員の能力からみても不可能なことである。オンラインで徹底して個別の顧客のリクエストに対応する一方、店頭のオペレーションは従来どおり「マス的」に行われている。

またツタヤでは3ヶ月以上店に来なかった顧客に対して来店を促すメールを携帯に発信している。それには割引のオンライン・クーポンが付いていてかなりの割合で顧客が再来店するという。

オフラインでのマス・オペレーションを大きく変えずに、オンラインで個別のおもてなしができる。このモデルの重要な点はそのダイナミズムにある。オンラインにせよ個別の対応をすることにより、企業全体に顧客をもてなすことが重要であるとの認識が浸透する。そしてこの能力は「顧客と対話する能力」とシナジーを生み急速に古い企業文化を破壊する力があるのだ。

5. オンラインとオフラインのダイナミズム

すでに読者がお気づきのように、ここで述べられている問題の本質はウェブサイトの問題ではなく、リアルにおける問題なのである。

「サイトをつくる」 → 「改善を要するリアルの問題が表面化」 → 「問題解決」 → 「サイトを修正」

というダイナミックなしくみを全社的につくることが出来るかどうかで上述の「三つの能力を獲得する力」が決まることになる。筆者が行った2001年ウェブマスター・インタビュー調査からいくつか例を紹介する。

家庭用品メーカーのウェブマスターH氏は「ウェブサイトの作成については漠然とインターネットで何かやりたいではだめだ。誰に何をどう伝えたいのか、が決まっていないとうまくいかない」と語った。各ブランドを担当する事業部は最初からインターネットに対して消極的なところが多く、その担当者に「あなたのブランドは誰のために何を伝えたいのか」と問い詰めても強い反発を買うだけだった。今でも内部の説得と調整に時間の80%を費やしている。サイトの実物を見せ顧客の実際の声を聞かせることにより徐々に理解を深めてもらうのが一番の早道だという。

若者向けサービス・ビジネスを展開するT社のO社長は「サイトが出来るまではうちにはカスタマーサービスの部門がなかった。サイトで問合せのページをはじめたら、クレームなどがたくさん来るようになった。今はその重要性を実感しているし、それを長いこと疎かにしていたことを反省している」と語った。

「今まで一部の社員を除くとほとんどは顧客との直接の接点がなかった。そういった部署の人たちに顧客からの感謝メールを転送してあげると感動する」と運輸サービス系の企業でウェブマスターをしているT氏は語る。氏によると、顧客に喜んでもらうことがいかにうれしいことかが分かる人たちが徐々に組織の中に増えてきているのだという。氏はまた、「ウェブを担当するようになってから、企業理念が明快でない、顧客のことを考えたサービスになっていない、営業は大手取引先しか見ていない、というリアルの問題が目の前に噴出した。これを上にあげてもなかなか相手にしてもらえなかったが、「これは私の声ではなく顧客の声だ」と言い続けてやっと上が動くようになった」とも語っている。

スポーツメーカーのK氏は、「顧客の声をいかに社内に対してシステム的に発信していくか」が今後の課題であると語っている。また、自動車メーカーのHはサイトで得られた顧客の声をまとめ、社内イントラネットにアップロードしている。対顧客コミュニケーションの最前線で得られた知見を、サイト担当者だけで消化するのではなく全社員で共有するというナレッジ・マネジメントが、リアルの問題解決に不可欠なのである。

これらの例からも分かるように、上で紹介したサイクルが一回まわると「志なきサラリーマンたち」も徐々に目を覚ましてくる。自分たちが誰のためのどんな存在でありたいのかを真剣に考えることを要求される。そうするとすべてのアクションはその理念に照らし合わせて厳しくチェックされるようになる。その結果運良く実際に目指した顧客から好意的な反応が返ってくると、「志」を持つことの意義とその正しさに確信を持つに至るわけである。

6. おわりに

J.C.Collins & J.I.Porras (1994) はその著書の中で企業が時代を超えて繁栄するためには、「われわれは何のためにあるのか」という骨太で一貫した基本理念を軸に絶え間ない進歩にチャレンジしてゆくことが不可欠であると説いた。一方、D.Lewis & D.Bridges (1999) は、消費者は本物の組織と商品にのみ感動すると論じている。両者を合わせると、「自分たちは誰をどう幸せにしたいのか」という理念をきっちりと持った企業が、これはと狙った消費者の能動的な支持を梃子にして進化のスパイラルを作り上げる、というモデルが浮かび上がる。

これは奇しくも今まで見てきたインターネットの普及が示唆するモデルに他ならない。注意したいのは、インターネット環境が新しいモデルをつくりだしたのではなく、時代を超えて本質的に重要なモデルがインターネットにより、よりクリアになり,よりパワフルになったのである。

最後にやや乱暴な議論をお許しいただければ、インターネットを駆使して顧客とともに進化しようとする企業以外存続できない時代が案外早くくるかもしれないとも思えるのである。

[参考文献]

片平秀貴(1999)『新版・パワー・ブランドの本質』ダイヤモンド社

国際価格構造研究所(1996)『「平成7年度消費者向けサービスに係る内外価格調査報告書」

情報通信総合研究所(2002)「インターネットの普及予測について~日本のネット環境はブロードバンド化の進展により大幅に改善」、Infocom Review、28号

日経BP社(2002)「第13回インターネット・アクティブ・ユーザー調査」、『日経ネットビジネス』89号

山本晶(2001)「企業サイトが消費者態度に与える影響:オンラインマーケティングとオフラインマーケティングの統合」、『マーケティング・サイエンス』近刊

Barwise, P., A. Elberg and K. Hammond (2002), “Marketing and the Internet: A research Review,” Future Media Working Paper, No.01-801, London Business School

B. Bickart and R. M. Schindler (2001), “Internet Forums As Influential Sources of Consumer Information” Journal of Interactive Marketing, vol. 15, No.3, Summer.

J.C.Collins & J.I.Porras (1994) Build to Last: Successful Habits of Visionary Companies: New York, Curtis Brown

D. Lewis & D. Bridger (1999) The Soul of the New Consumer: Nicholas Brealey Pub. London

G. McWilliam (2000) “Building Stronger Brands through Online Communities,” Sloan Management Review, Spring.

J. Strauss and D.J. Hill (2001) “Consumer Complaints by E-mail: An Exploratory Investigation of Corporate Responses and Customer Reaction” Journal of Interactive Marketing, 15 (1), 63-73.

L. Strazewski (1997) “Xerox e-mail response build global fan club” Advertising Age’s Business Marketing,, Apr, Vol.82, Issue 3.

*註:本稿は奥野正寛、竹村彰通、新宅純二郎編 『電子社会と市場経済:情報化と経済システムの変容』(新世社;近刊)第4章論文 片平秀貴「消費者行動:電子社会の進展は企業と顧客のあり方をどう変えているか」を基礎にしながら、それを大幅に加筆修正したものである。

(本論文は一橋ビジネスレビュー2002年冬号に掲載されたものの元になった原稿です。)