zest 訪問レポート

サントリー山崎蒸留所にもご一緒していただいた、京都御池地下街化株式会社の社長の辻田光さんとともに、2015年3月9日の午後は、「ゼスト御池」を訪問。
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ゼスト御池は、京都市中京区の御池通りの地下に1997年に作られた地下街。京都市の第三セクターだが、次第に客足も落ち、店舗の撤退も相次いでシャッター街になっていた。このゼスト御池を再生を託す経営者の公募が2006年に日経に載っていたのを見たのが、当時サッポロにいた辻田さんだった。

辻田さんは、サッポロの営業部門で長く活躍してきたが、ブランドの大切さを痛感し、「営業も売るだけでなくブランドを強くすることを考えなければ」という考えでリーダーシップを発揮していた。
ブランドの確立なくして成功なし。感動=おどろき×哲学×おもてなし、ということを東大マーケティングフォーラム時代に片平さんから学び、「ブランド営業」として実践していたのである。

数千人という応募者の中から選ばれた辻田さんだったが、商業施設というそれまでとはまったく畑違いの仕事。さらに三セクということで、行政の動きの鈍さに苦労の連続だったと言う。ただ、辻田さんには、「経営にとって大切なことは、夢や理念。リーダーがどのような想いを持つかだ」という確信があった。

それまで、3セクだから何もできないと思われていたのを、「3セクだからこそできること」と発想を逆転した。3セクは市民の財産だ。それなら市民の力を借りよう。広場を市民の表現の場として、ある程度社会性のあるイベントをどんどん実施するようになった。この地域は学校が多いので、生徒の作品を展示すれば、父兄や親戚も見に来るようになった。今では、年間350ものイベントが実施され、御池合唱団も結成された。
一般の商業施設ではできないような、経済合理性と社会性の融合の取り組みが、「3セクだからこそ」できたわけで、「これがあったから8年やってくることができた」と辻田さんは語る。

また、京都で活躍するアーティストの作品を置いた。寺町広場には木村英輝氏の「108匹の鯉」を見ることができる。
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城たいが氏の「おぼこいけず地蔵」は、行政から待ったがかかった。宗教施設だと言うのである。辻田さんは、京都市と粘り強く交渉し、実現することができた。今では、ゼスト御池を訪れる人たちの人気者になっている。

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ただ、訪れる人は増えてきても、地上の店の基準でものを考える会社が多く、出店はなかなか進まなかった。コンビニを出店しようと思っても、なかなか希望者があらわれない。常識をやぶろう、誰もやらなければ自分でやればいいと考えて、直営で出店すると、これが当たった。その後、高級食品スーパーをはじめ、次々と新しい店がオープンし、店の新陳代謝が着実に進んでいる。この会議室のテーブルは、最近閉店したカフェのものをもらってきたのだそうだ。
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運営管理体制も変えた。社員は最低限にして、外部の専門業者に委託することで、それまで開店時間になっても品出しをしていたようなこともなくなった。平成29年には、リニューアルが完成する予定だそうだ。

辻田さんは、「3セクだから、市はゼスト御池をつぶすようなことはない。だから理想を追求できる」と語る。ただ、自分ひとりの力ではなく、協力してくれる人がいたからできた。個から組織の戦いにして、自分たちで戦略を考えるようになったから理想を実現できたと考えている。
ドラッカーの「一人の力では事業は成功しない。多くの他人の力があれば成功する。他人の力を借りるためには、人格が必要」という言葉を、辻田さんは実践している。
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