参加者の声 小林 喜光氏

第6回 「地球と共存する経営」
小林 喜光 (㈱三菱ケミカルホールディングス 代表取締役社長)

 

■従来の財務諸表に現れない指標を経営に生かす試みとしてのMOSについて大変興味を持ちました。
実は今回は課題図書を読了せずの参加となってしまいましたが、早速購入しました。

特定の分野に深く関わる人々を、「いい加減」のジェネラリストが横串として纏めるとの考え方には深く同意します。
会場でも質問させていただきましたが、「深い人々」とい「い加減の人々」には何とも言い難い溝が存在すると考えており、いかにここを埋めるかが課題だと思っています。

■(質疑応答時には使ったものの)講演時には一度も「ブランド」という言葉を使わなかったと思う。しかし素晴らしいブランドの話だった。
偶然、先週「三菱マーケティング研究会」というクローズドな会の特別講演会でも小林社長の講演を聴講したこともあり、またかつて同研究会の分科会でディアマナやバーベイタムに関する事例研究をした経験もあり、全てがつながり、実感を持って理解することができたと思う。

①産業財のブランディング: グループはバーベイタム、ディアマナ、クリンスイ等のブランドやB2Cビジネスも持つが少数派であり、その多くはB2Bビジネスだ。B2CビジネスがテレビCM等のクリエイティブにより消費者への訴求を図るのと同様に、B2Bビジネスでは「技術」により購買意思決定者への訴求を図る。ともすればマンネリ化タコツボ化しがちなこの「技術」を対象にして、選択と集中、統合、対外発信等を図ることで、産業財ならでは素晴らしいブランド訴求を行っていると理解した。

②PMIにも有効なブランド: 小林社長は、金融を始め各社が苦労するPMI(Post Merger Integration)という難しい課題に対し、「横串を通す」等の平易な言葉を用い、未来のビジョン、グループブランドの在り方を示し、グループの統合と改革を進めている。

③統合の事例: ディアマナは、タイガーウッズが採用し世界的に有名になったゴルフクラブの炭素繊維シャフトだが、単にシャフトを売って利益を上げるのではなく、航空機(翼)市場、さらには将来の自動車(車体)市場を狙い技術を訴求するショールームだと言われている。このディアマナで、従来のPAN系のしなりに加え、ピッチ系の高弾性が融合し、新たな次元の素材を上市していることは、次世代自動車のComfortとSustainabilityの実現に向けて朗報だ。これはB2B事業とB2C事業の統合とも言えるだろう。

■久しぶりに、経営者の「(硬派な)Vision Making」のお話をお聴きしたように思います。
企業内外は当然として、国およびGrobalな視点で経営環境を捉えられ、一方で、企業人としての”思い(=なぜこの企業は存在するのか?)”を傍らに置いて、しっかりと積み上げられた「Vision」は、中々歯ごたえがあり、小生のような者には容易に全体を理解しえないモノでした。
ですが、企業の存在意義を真正面から問い直し、自社の資源を如何に組み合わせてそれに応えていくか、という誠実でシンプルな問題設定の下、達成すべき顧客ニーズを深い洞察力でより高次のモノに引き上げ、それに基づいて個々の縦割りの力をより付加価値を生む”すり合わせ”の企業力へとレベルアップされようとする志と実行力はスゴイと思いました。
本当に勉強になりました。
ありがとうございます。

■あらかじめ本を読んで理解・共感していたので、今回のお話は楽に聞けるとタカをくくっていたのですが、とんでもない思い違いでした。 実際のお話は現場の最新の技術事例から日本を取り巻く国際情勢まで、話が広範囲かつ深いにも関わらず、時間の関係でどんどん飛ばされるものだから、理解・納得してついて行くのが大変でした。 片平さんの「9割理解できなかった」よりはマシなつもりですが・・・。
いずれにせよ、MOSという概念を新たに経営指標として取り込むことを発案し実行されている小林社長の強い信念と粘り強さには、ただただ頭が下がります。
実は50年後の未来の姿(シナリオ)をいくつか描き、その各シナリオが実現する予兆とその場合に取るべき施策をあらかじめ準備しておく、というシナリオプランニングの手法をトライした経験があるのですが、トップの強い意志が続かなかった事もあり、頓挫してしまいました。 今から思えば、これはどんなに企業を取り巻く環境が変わっても“ありたい姿”に向かって進んで行く、というMOSの考え方とは「志」が全く違っていたからかも、と思い至りました。
また、お話の中では、“低炭素社会”ではなく、“新・炭素社会”を目指す、というのが目ウロコの斬新な発想だと印象的でした。
PS:質問のチャンスがなかったのですが、MOSの目指す3つの方向の一つ“Comfort”と”KAITEKI”はどう違うのでしょうか? またなぜ“快適”ではなく”KAITEKI”とされた理由もお聞きしたかったです。

■ 前回に続き素晴らしい講師人選ですね。

日本の生き残り策を考えるには製品やサービスの売込みではなく
日本が世界のサステナビリティー実現にいかにして貢献するかを
考え、提案しなくてはならないと思います。
人類が共通に求めている価値は何なのか。・・・
お金は価値の評価、交換尺度では有りますが価値そのものでは
ありません。
目先の利益しか考えないROE経営を否定し、長期的に人類に
必要な価値の実現度を評価しようとするMOS経営は目から鱗の
発想でした。
是非そのコンセプトと評価軸の設定方法を確立し
日本発の経営思想として世界に広めて頂きたいと思いました。

■事業が多岐に亘り、なおかつ最終ユーザーが見えにくい中で、的確にタクトを振っている経営者だと実感できました。地球と共存する、というよりも「KAITEKI」というバリューを約束し、提供している相手(すなわち顧客)は“地球くん”(地球を頭部にして擬人化したキャラクターのイメージです)なのではないか、その地球くんがニコニコしている姿を目指しているのではないか、というような印象を受けました。他の化学メーカーが、化学そのもの、イノベーション、ヒトなどに焦点を当てた訴求を行っている中で、目の付け所の違いが鮮明だと思いました。

■昨今、地球と共生、共存という言葉をスローガンに掲げた企業は、数多くありますが、少々、無理やり感の強いものが多いように感じておりました。
しかし、小林さんの率いる三菱ケミカルホールディングスの事業活動が、地球並びに人類の平和な未来と密接に結びついていることを改めて拝聴し、これほどに地球と共生という言葉がしっくりくる企業は中々ないと感じました。
また、通常の企業(主にBtoC)であれば10年程度の近い未来に目標を定めて事業活動を行っていくところが100年後の人類が利用できる地球資源の状況を見据えてからという、このスケールの大きさに少々驚き、感銘を受けました。
確かに地球の未来における課題は人類の存亡をかけるような重いものです。それも後100年しないうちにやってくるかもしれない。
この大変大きな課題の解決に向かって人種、国境、研究、企業間の壁を乗り越え、英知を結集していくことがいかに大事かということですね。
余談ですが、今の政治家にちゃんと理解できているのか少々不安です。
最後に「地球快適化インスティチュート」素晴らしい意味合いをもった言葉です。
小林さんが何度もおっしゃった「横櫛を刺す」で政界、財界、研究・技術界を徹底的にかき回して素晴らしい結果を出してください。期待しています。

■ホールディングス、傘下の会社、といったグループ経営を担うにあたり、どのように取り組んでいるかが伺えたのは良かったが、素材メーカーというやや不慣れな業界のためか、全体的にとっつきにくい印象を受けてしまった。
「三菱」というブランドがどのように影響しているかなど、具体的なお話が聞けるともっと分かりやすかったのではないか、と思った。

■・企業とは何か、働くとは何か、を改めて考えさせられた。
・小林講師言うところの、「求心力を得やすい」自動車会社に長年勤務したが、経営の側がそう思っても、自動車が好きでもなく働く者もいたし、ましてや公害・交通安全問題では社会的な批判にさらされ苦悩する者もいた。
・どなたかが質問されていたが、抽象的ではなく具体的な目標が見つからないと求心力が働きにくい、のではないか。だからこそ経営という立場の苦労が推測されるのだが、逆に言うと、そのような組織にする、という時に十分な議論や了解がなかったということにもなる。こうした矛盾は働く側には表面的には仕方がないと諦めるが、内心は理不尽に感じてなかなか了解点に達しないものだ。
・ご苦労されているように、「シナジーの結果」を早く、わかりやすく出すことに尽きるのだろう。その為にも、技術の音痴のトップが登場する前に結果が出て欲しいと他人事ながら思う。

■かつて無いほどの、難易度の高い講演でした。
「理科系の言葉」、世間では、一番下手な人種とされているが、業種領域の言葉で、企業グループを統率する手法に、物事の考え方のヒントを得ました。
「ありたい姿」「グループモットー」は、言葉自体が分かりやすく、おそらく末端の工場勤務者でも理解できる内容だと思いました。特に、APTSISの使い方には驚きました。(講演画面の右上)四六時中、これが目に入れば、意識もし、理解促進も図られる。こう言う緻密さが、エンジニアの志を感じましたし、この手法も、自分の仕事に借用しようと思いました。
また、多重事業の物事の考え方についても、多重化する課題解決の手法として捉えることが出来そうではと感じました。書籍も含め、全体を通して、かなり多くの業態で、小林社長のメソッドが応用できるのではと思いました。

■製造業、しかも化学・素材のメーカーさんとのことで旧態依然とした経営を想像していましたが、良い意味で裏切られました。Sustainability, Health, Comfort, ともすればケミカルの正反対の極に考えられがちな概念をあえて正面に据え、50年計画のバックキャストで取り組まれる姿は軽薄短小産業以上のものがあると感じます。経営品質としてはDowやMonsantoなどより余程高次元だと思います。

■ 科学者が経営者になるとはこういうことかと得心しました。
また科学者であればこそ確たる「想い」に立脚するべきことを見せてくれているとも思いました。
まず、従来よりのMBA、MOT、に “MOS”の軸を加えた3軸とし、さらにこの3軸は時間軸に沿って進化発展していくという四次元空間をグラフ化してみせる空間把握力、イメージ力が爽快です。自分も含めて大概の凡人は一つないし二つの軸の上を行ったりきたりしていて第3の軸の存在に気づかない。あるいは、なんとなく感じていても積極的に関わろうとはしない。自分の世界の話ではないから・・・ダークマターのようなものですね。
さらには、グラフ化から数式にまでしてしまうところは鮮やかというばかりです。私などは見たとたんに思考停止してしまいますが、数式で書いた方が理解しやすい方々もいるのです。
さて、このMOSという第3の軸が指し示している方向はsustainabilityなのですが、原点はなにかと考えるに、ひとの心の問題、「ひとは人と地球に何をしてあげられるのか」という問いかけだと思うのです。
ケミストリー3万の商品を売るケミカルカンパニーが何のために集っているのか社員がわからない。そのような状況から、必ずしも収益にこだわらない、せめぎあいの着地点としてsustainabilityをおき、全く専門外同士でも共通に分かり合える新しいものさしを持った。それがMOSという軸なのだと思います。
ものさしですから、数値化、指標化できているところが凄いところで、ブランドを含むインタンジブルアセットの可視化の完成に他ならないのです。
見えないもの(尺度が属人的になる)に共通の尺度を与えることによって、評価項目に加えることができるようになります。経営指標にも使えるし、人事評価にも使えるようになり、「おまえはブランドのことが何も分かってない」と言える(言われる)ようになるのです。
MOS軸はブランドを内包する大きな概念だと思いますが、それが確固たる「想い」をもった稀有のTOPのもと、MBAやMOTという数字の世界と同列対等に評価される日が産声をあげました。
4次元空間を描いた海図ができたこの上は、どういう船を創り、どういう船頭を育てれば良いのか、見えてくるのではないでしょうか。
おわりに、『「三菱」ではまとまらない』とぽつりと漏らされたのが、妙に耳に残りました。三菱と言えば丸の内。栄光の日本経済そのもののような重みを持つ「ブランド」ですが、それで人心がまとまらないとはどういうことか・・・「三菱」がendorseしているのは何かとの答えの対角に、MOSの本質が見えたような気がします。”,小林さんは本来ならば滅多にこの近い距離でお話を拝聴することができない、相当上の人です。

■ *参加に当たって
「地球と共存する経営」を事前に拝読し 4つの要素で測ると
いう私にとって初めて聞く概念の生まれた理由と理解を試み、
今後のブランド考察を深めるため
参加した。

*理解・解釈の観点
概念そのもの、ブランドへの関わり、自らの場との対比、実践の必要・可能性を考える。

*拝聴結果
1 MBA軸(MOE)は企業存続のため「稼ぎ」を測る従来から
ある手法
これは議論の余地は無い。
2 先進技術 MOT軸 モノ作り企業として価値の提供
=正当な利益の根源として
最近 どの会社も標榜している軸 これも理解出来る。
3 MOS ステークホルダーに地球を加えたところが素晴らしい
発想。
企業は地に根ざしていることを明確化した。
これは初めて軸として聞いたが卓見、必要なことと考える。

4 KAITEKI価値 これは括りがしづらい
「やると良い事ある(はず)」を
文言にしたのではないかと理解した、
一種の動機付けと思う。

5 普遍的な要因 BtoBの業種の抱える課題が上記4を
熟慮された要因と考える。
特殊な要因  またHD化し業態の異なる事業体を
抱えることになったことも
緊急に上記4を提示する必要のあった
別の要因と推察する。

6 時間軸 基礎研究を経営陣の管理を行わないと
10年単位で無為に過ぎていく危険が有る。

*推論・考察
(1)KAITEKI価値をどう取り扱うかが最大の眼目で、
最終的には個人価値に依るのではないか?
他の軸は継続評価が可能と見えるがKAITEKI価値は経営陣が
変わると評価が変わると考える。
数値化は行えるが係数は恣意的に変えられるので、
変わり得る。
(2)なぜこのような4要素を設定したかは、
田辺という別の組織体を包含した
また三菱というブランドがこのグループ会社の会社間社内で有用では無かった、または機能しなかったと推論する。
(3)なぜこのブランドが機能しなかったと考えるに
*三菱の領域が広すぎ、社員、ステークホルダーの
一人一人に強いイメージ、
または共通価値が見出しづらかったと考える。
*ドイツのダイムラーGrもそうであるが、重厚長大、
基幹産業の位置付け
存在感が戦前に比べ、低下していたものと考える。
*これは奇しくも敗戦国での企業解体(場合によれば戦争協力への追訴)という共通の状況が見出せる。
*戦勝国のUSのDUPONT、BOING、GM、FORDなど20世紀には
強大な企業求心力を持っていたのと好対照である。
(USについて後述)

(4)戦後 発展した SONY、弊社Hondaなどは、実態は
その中に多岐に渡る事業体を抱えながらも、
このような求心力を長期間模索する必要が少なかった
と感じる。

*自らの立場に置き換えた主体的考察
(5)幸いにもBtoCが主体で自らの提供価値が判りやすい
(小林会長の言葉)環境にあるが、R研究や間接部門など全ての部門が求心力を 保持しつづけているとは必ずしも言えず、社是・先人の志・生き様を伝え、噛みしめる場の提供拡大が私達にも必要
(6)崖っぷち意識は何時でも必要だが、このような全く業態の異なる他社のTOPの言葉は、忘れがちな社内施策の強化動機付けに有用と思います。
(7)「独立独歩 自らの手を汚さないとダメ」な愚直な弊社の体質からは
HD会社が行わないとならない「的確な指標の設定」労力を自らの価値拡大活動に向けられるものと考える。
結論
ホールディング会社のブランド構築の考え方・やり方の一つが
判り、必要な業態とそうでないところの考察・理解が出来た。

最後に
同名の著書だけでは 何故必要だったか?3要素、1機能を
知ることが出来なかった。
今回 直接お聞きすることが出来より広く豊富な話が聞け
理解が深まりました。
有難うございました。

付記
21世紀の企業求心力

20世紀がイデオロギー実験の世紀ならば戦勝国の企業として
USの基幹産業は「ほぼ全ての会社」でその意義、実感は持ち得たと考える。
文字通り 「富の追及は是 消費は美徳 効率向上(規模拡大)が必要」であった。
社会主義世界が崩壊・変質し、国内調達・生産から欧米を超えたグローバル分業となり
先に記したUSの基幹産業は脆弱化(産業から運用重視)し、化学・自動車そして航空機
産業の地位低下を招く結果となった。
経済に於いては、現在は旧戦勝国・敗戦国の状況は似通った(収斂化してきた)と
考えます。

■残念ながらMOSの内容について、最後まで腑に落ちることができなかった。それはきっと私の知識、理解力の足りなさに起因すると思われる。ただ、自分なりの解釈するところは、MOSにより組織の倫理観を高め、経営に寄与するということだ。

近年、企業の不祥事が内外で後を絶たない。食品偽装、会計偽装などによって、伝統ある企業もあっという間に崩壊するのを目の当たりにしてきた。その都度、コンプライアンスが強化され、対応が施される。しかし、、これらの問題が根本的に解消され、それ以降の不祥事がなくなるといったことはない。

ある研究によれば、罰則をどんなに厳しくしても、不祥事はなくならず、より効果的であるのは、不正行為は「悪」であると繰り返し伝え続ける、と云うものがある。つまり、日常から倫理観を高める努力こそ、企業の暴走リスクを最小化することにつながる。

そもそも「欲望」と「リスク」のコントロールができなくなると、組織は暴走する。MOSはこの2点を抑えることに寄与するが、万事抑えることが正しいとは限らない。

最後に小林社長の凄さは新しい概念を具現化し、経営の現場で実行していること。取っつき難い概念を社内に浸透させ、継続させると云うことは、傍から見ても難易度が高いと思う。実践することの忍耐力にただただ敬服するばかりである。

■本や講演の内容は正直私のキャパを大きく超えたものだったのですが、お話を拝聴し感じたことは、小林様が人間の「業」みたいなものを意識されていらっしゃるのかなということです。私たちは生ある限り、動物を食し資源を使うことしかできない、でもこの快適な社会は子孫に残したいという欲深い生き物だという想いが小林様を強く突き動かしてるのでは?と感じました。
本の中でカッコの中の言葉(ちょっとした気持ちを表した言葉など)が面白くてクスッとなりました。

■ホールディングカンパニーという、それぞれ別の事業を束ねていく経営に対して、とてもわかりやすく方向性を示されていた点が印象的だった。
個別の事業会社では、数字に基づく経営があり、それとグループ理念を両立させていく、各社の経営者もとても優秀な人材が必要だと感じた。”,,